平成24年度 ダイバータおよびPWI合同研究会概要
プラズマ物理クラスター スクレープオフ層とダイバー タ物理サブクラスター(第1回会合)
炉工学クラスター ブランケット サブクラスター(第2回会合)
筑波大学プラズマ研究センターシンポジウム

双方向型共同研究「ガンマ10装置における炉壁材料の損耗・再堆積の研究とそのダイバータ開発戦略における位置づけ」会合

日 時:平成24年7月23日13:00 ~ 17:40, 7月24日 9:00 ~ 17:30
場 所:筑波大学内・筑波大学自然B棟119講義室

7月23日

1. ダイバータ・開放端磁場配位における非接触プラズマの研究の進展と課題(進行:朝倉 )

1.1 非接触プラズマ研究と課題 大野・名大

非接触プラズマ研究の現状と課題について議論を行った。研究課題として、(1)原子・分子過程(2)計測、(3)エネルギーバランスの理解、(4)動的応答過程、(5)径方向輸送過程、(6)熱的不安定性などの非接触プラズマの安定性、(7)金属壁での非接触プラズマ生成(8)Puff&Pump, エルゴディック磁場(磁気島)などによる非接触プラズマの制御手法の確立、(9)先進ダイバータ配位への適用性に関する議論が行われた。

 
1.2 デタッチメント領域におけるプラズマ診断法
~ダイバータ模擬装置MAP-IIにおける開発事例~ 門・東大

体積再結合が素過程を支配するデタッチメント領域では,プローブ特性が乱される,電子衝突励起による発光(電離進行成分)がなくなる等,計測は困難であった.特に再結合フロント最輝点の分光計測で得られる輝線強度比からの評価では,1 eVより遙かに低い電子温度が唐突に現れ,その信頼度がしばしば疑問視されてきた.本研究ではヘテロタンデム型ダブルモノクロメータによる,0.04 – 40 eVを検出範囲とするレーザートムソン散乱システムが開発された.ダイバータ模擬装置MAP-IIに適用したところ,電子の熱平衡温度は再結合フロントで0.06 eVまで低下していることが確認され,分光診断で得られるのは最輝点の電子温度であることが証明された.さらに,ドップラー・シュタルク分光法を用いることで,ヘリウム再結合プラズマにおいては3つのヘリウム原子輝線のスペクトル形状から電子密度,イオン温度,ガス温度の推定が可能であることを提案し,その原理検証を行った結果が報告された.
 

1.3 LHDのダイバータおよびRMPコイル実験の概要 増崎・NIFS

LHDにおけるダイバータによる粒子制御実験と、熱負荷軽減実験について報告した。LHDではダイバータの閉構造化を段階的に進めており、8月から始まる実験ではトーラス内側ダイバータの80%が 閉構造化、1箇所でダイバータ排気を稼働して粒子制御実験を行う。ダイバータ熱負荷軽減実験の結果として、RMPコイルを用いて周辺プラズマ部に磁気島を形成することで、比較的大きな放射損失パワーを安定に維持できたこと、Ne, Ar, N2ガスパフにより放射損失パワーを増加できたことが報告された。

 

1.4トカマク・ヘリカル配位における非接触ダイバータプラズマ揺動解析 田中・NIFS

JT-60UおよびLHDにおいて、接触・非接触ダイバータ状態がPlasma Blob輸送などの非拡散的輸送にもたらす影響を調査した。JT-60Uでは非接触状態時にX点周辺で大きな周期揺動が観測され、これに伴った磁場を横切る輸送の存在が示唆された。またLHDでは、Plasma Blob様の構造伝搬が非接触状態時に顕著になり、ダイバータ板上の粒子束が広がる結果が得られた。

 

核融合炉における課題(進行:大野 )

2.1 Liダイバータのトリチウムバランスに与える影響  西川・九大

ダイバータの熱負荷処理のためLiダイバータの研究が進められているが、本報告ではLiとトリチウムの関わりがトリチウムインベントリーの増加を呼ぶ可能性を指摘し、筆者のトリチウムバランス解析手法を用いて要求トリチウムインベントリーの増加の程度を予測した。Liからのトリチウム回収手法の現状やLiに伝えられたエネルギーの回収方法等について多くの質問やコメントを頂いた。

 

2.2エネルギー変換装置としてのダイバータの課題  小西・京大

京大の提案するバイオマスハイブリッド概念では、エネルギー利用システムとして高温熱を取り出すために工学的に可能な領域として低出力、Q~5域に設計ウィンドウを見出し、液体金属媒体を選択した。ダイバータも熱エネルギー利用を考えたコンポーネントとして設計する必要がある。高熱流束を受けるダイバータではアーマ表面への熱負荷は局在するが、熱媒体配管への伝熱のためのヒートブロックにおいて、効果的に熱流束を分散させ、温度差を下げて比較的低流量の冷却材にエネルギーを移送するメカニズムが必要である。冷却材のポンプ動力はプラント成立性から無視できない。一方、低出力炉では必ずしも放射冷却への依存が強くないため完全デタッチでなくてもエネルギーバランスは成立するが、高い粒子エネルギーでの損耗を検討する必要がある。

 

2.3直線装置を含むパルス熱入力下ダイバータ表面損耗のその場測定 糟谷・応用ながれ研究所

三角測量方式レーザー表面変位計による材料耐力の測定結果のダブルチェックを行うために、分光干渉方式変位センサーによる同測定を行い、パルス熱流入に対して、炭素や黒鉛がほぼ同程度の耐力を有するのに対して、タングステンや光学グレード多結晶CVDダイアモンドが、ほぼ同程度、より高耐力を有することを定量的に示した。種々の市販の表面変位計や変位センサーの現状性能を広範囲に調べ、表面状態のその場測定可能性を検討した。さらに、上記のダイアモンドのより広範囲への応用についても、その可能性を示した。

 

3. ガンマ10研究における研究の進展と課題(進行:大野 )

3.1 プラズマ研究センターのダイバータ模擬実験の現状 中嶋・筑波大

ガンマ10西エンド部で行ってきたダイバータ模擬実験研究(E-Divertor)について報告された。高熱流束の生成実験では、380kW短パルスECHの重畳により、ITERにおけるダイバータ板の熱流密度に匹敵する値(≥10 MW/m2 )を達成した。また、極小磁場アンカー部におけるICRF追加熱により、隣接するセルにおける追加熱が効果的であることを示した。今春,設置が完了したダイバータ模擬実験モジュール(D-module)を用いた閉ダイバータ化模擬実験が開始され、その初期結果が紹介された。

 

3.2 ガンマ10エンド部におけるプラズマ照射材料の表面分析 永田晋二・東北大

タンデムミラープラズマ閉じ込め装置ガンマ10の端部より流出する高熱流束を利用して,ダイバータ板の候補材料をプラズマに暴露し,その際に侵入したプラズマ粒子の深さ分布,試料表面の堆積層および損傷についてイオンビーム分析を行い,ガンマ10 エンド部での照射環境とダイバータ材料への照射効果について検討を行った。

 

7月24日

4. 国際・国内活動の近況とITERタングステンダイバータ(進行:秋場 )

4.1 STAC での討論:「ITER初期からのタングステンダイバータ」に関して 鎌田・JAEA

ITERのSTAC-12会合(本年5月)は、「今後1~2年間で期待される世界的な研究及び国際トカマク物理活動(ITPA)による分析を総合することで、2013年後半にダイバータに関する決定を行なうために必要な基盤が整うであろうこと、しかし現時点では未だ多くの課題が残っており、引き続き本研究領域の進展を確認して行くこと」、をITER理事会に提言した。このSTACからの要請を受け、ITPA調整委員会は、2013年前半までに総合的評価を行なうこととし、全7トピカルグループに対して、所掌研究領域の観点から、i)評価項目と判断基準の提示、ii) それに沿った世界の研究結果のアセスメント、iii)残された課題、iv)評価結果を、2013年春までに纏めるように依頼した。まず、本年秋のIAEA会議での世界の研究報告を踏まえて、秋のトピカルグループ会合で議論を行なう。上記を受け、国内では、核融合エネルギーフォーラムの物理及び工学クラスター・サブクラスター会合や、ITER・BA技術推進委員会のITER科学技術検討評価WG、核融合ネットワーク等で国内検討・議論を進めて行く。

 

4.2 ITERダイバータのR&D進展  鈴木・JAEA 

国内機関となっている原子力機構でのITERダイバータ外側垂直ターゲットの調達活動の一環として、外側垂直ターゲット実規模プロトタイプの製作の状況を報告すると共に、昨年、ITER機構から提案されたフルタングステンダイバータターゲットに関するITER機構での詳細設計の進捗状況及び原子力機構での小型ダイバータ試験体を用いたR&Dの実施状況を紹介した。

 

4.3第16回ITPA会合(本年1月)報告と討論

4.3.1 会合概要と予定、タングステン(溶融、ファズ、熱流束テスト、R&D)上田・阪大

2012年1月にドイツで行われた第16回ITPA会合の概要を説明した。次回は、10月に米国(サンディエゴ)で行われ、フルWダイバータに関する議論を集中して行う予定である。熱負荷については、他のトピカルグループ(ペデスタル等)と合同セッションが検討されている。リーディングエッジを持つWモノブロックへのプラズマ熱負荷実験がASDEX-Uで行われた。溶融層はこれまでと同じくJxBの方向に運動し、表面のスムージングは見られない。同様の結果が、C-Modでも示された。C-Modではタングステン fuzz形成を目指した実験を行い、実機でもfuzz構造が得られることを示した。直線型プラズマ照射装置、Pilot-PSIにおいて、定常プラズマとパルスプラズマの同時照射実験(ヘリウム、重水素)を行い、同時照射下では低いパルスエネルギーからタングステンが損耗することが示された。

4.3.2  ベリリウムとタングステンの損耗・再堆積、JET-ILW結果 仲野・JAEA
JET では真空容器保護タイルをITERと同様の材料で構成する改造を完了し,本格的な実験を開始した.この改造により,炭素不純物量は以前の実験レベルの10% に重水素リテンションも 10% に低減し,密度限界が数10% 上昇するなど良好な結果が得られたが,一方でペデスタルの圧力が数10% 低減し,プラズマ中心にタングステンが蓄積して電子温度がプラズマ周辺部と同程度まで低下するなど問題点もある.TEXTOR では W I の S/XB の再評価を行い,電子温度 20~80 eV でS/XB=50とほぼ一定であることが報告された.PISCES-B ではベリリウムの総損耗量と実効損耗量の比較を行い,プラズマ中のベリリウム密度が高くなるにしたがって総損耗量は増加するが実効損耗量は低下するとの観測結果が報告された.

4.3.3  ダスト、リテンション 芦川・NIFS
ダストはモニタリングに関するトピックスが中心で,Tore Supra(TS)からは静電型ダスト検出器測定でディスラプションに関連したダスト検出数が8割と最も多いことを明らかにした.AUGのダイバータ下部でのダスト実時間計測器を設計しており,NFRIからは実験室実験によるダストの捕集実験の結果が報告され,入射されたダスト量の約15%が回収可能である.
リテンションでは、炭素壁の場合とタングステンを含む場合においてリテンション量をフラックスで整理した装置間比較(TS, JET,AUG,TEXTOR)が行われた.AUG,JET-ILWではW壁化によりリテンション量は1桁軽減し, Rothが報告したリテンション量評価と同じ傾向を示していた. JT-60Uにおける検討結果では,Be第一壁+Wダイバータの評価量と同レベルであり,運転温度に対する考慮が必要である.

4.3.4  SOLパワー分布、ディスラプション 朝倉・JAEA
ELM間で測定したダイバータ熱負荷分布に特殊関数を当てはめ、SOLでの熱流束幅をスケーリングした結果がUS,EUから報告され、高プラズマ電流のITERでは1mm程度と標準値(5mm)より狭くなりことが予想される。狭い熱流束幅でのシミュレーションの結果、これまでよりダイバータを高い中性粒子圧力とすることで非接触ダイバータの生成(10MW/m2以下)が可能である。JET-ILWでのMGIによるVDE熱負荷緩和では、プラズマ温度が以前より高いためD2のみでは放射損失が低く熱負荷は大きいが、Ar+D2の場合にはこれまでと同程度の放射損失が得られた。

 

4.4 SAリサーチプランの進展と議論 進行:仲野・JAEA

JT-60SA 研究計画 v3.0の概要説明を行った.特に前バージョンである v2.1 からの大きな変更点である金属ダイバータの導入計画について強調した.つづいて, v3.1 への改訂に向けて 2012 年の活動計画について説明を行った.v3.0 で金属ダイバータ導入計画を明記したことに対応して,金属ダイバータで成立する熱負荷低減シナリオの作成(Ar 入射による放射ダイバータの SONIC コードによる評価)や金属ダイバータへの交換時の放射化レベルを見積もり,作業者による交換が可能かどうか評価する計画を述べた.

 

5. タングステン材の照射実験の進展とタングステンダイバータの課題(進行:坂本、上田)

5.1 核融合炉におけるタングスン使用の影響(中性子照射と崩壊熱、核変換) 染谷・JAEA(代読:朝倉)

Wの崩壊熱密度は大きいため、核融合炉(SlimCS)のダイバータ(2cmモノブロック)およびブランケット(0.2mm厚蒸着)の崩壊熱について、保守時のクーリング期間を決めた評価結果をしました。前者の大きな崩壊熱源はW同位体、後者はFeから核変換したMnであり、運転停止後一ヶ月程度までは、ダイバータの崩壊熱はブランケットと同程度.  ただし1ヶ月後の全崩壊熱は6%に減少し、その後は、ブランケットの崩壊熱が顕著である。対向壁での損耗の評価によりタングステンの使用量より崩壊熱は大きく影響する。

 

質問応答: 本条件での崩壊熱評価に図示した以外の多段階核分裂も考慮されている。中性子フラックスやフルーエンスを変えた評価も行っており、代表核種の半減期より長い場合は飽和する。

 

5.2 タングステンPWIモデリング進展(タングステン損耗) 星野・JAEA

原型炉概念SlimCSの外側ダイバータの損耗について解析した結果を報告した。ダイバータが部分非接触状態では、熱負荷低減はまだ不十分であるため、損耗量も許容できるレベルではない。さらに、ダイバータ熱負荷が下がった場合でも、イオン温度が高い状態では損耗を十分低減することは難しい。一方、ダイバータ熱負荷が15MW/m2以上であっても、ダイバータ前面のプラズマ温度やプラズマ流の空間構造によっては、損耗を十分低減できることがわかった。
 

5.3 プラズマガンを用いたELM様パルスプラズマのタングステン材への照射実験 菊池・兵庫大

磁化プラズマガンを用いて,各種W材へのELM様パルスプラズマ照射実験を行った。定常He予照射(PISCES装置)により形成されたW-Fuzzにパルスプラズマを照射した結果,エネルギー密度の増大に伴いW-Fuzzの損傷,アーキングが確認された。また,W-Ta(2wt%)材ではクラック発生のエネルギー密度閾値が上昇した。低放射化フェライト鋼F82H基板に成膜したVPS-W被覆材にパルスプラズマ照射した結果,表面溶融が観測されたものの,W被覆層の基板からの剥離は確認されなかった。

 

5.4タングステン被覆接合低放射化フェライト・マルテンサイト鋼の材料特性 徳永・九大

原型炉の第一壁・ブランケット及びダイバータのアーマ材/構造材料としてのW被覆・接合低放射化フェライト鋼の試作・開発と特性評価について報告した。溶射W被覆フェライト鋼では、界面の接合が良好な試料が作製された。さらに、高熱負荷部で使用するためにはWの層間の強化が必要。また、溶射W中では、水素はガス的な拡散挙動を示し接合界面まで達し、フェライト鋼中に拡散する。

 

5.5 LHDにおけるタングステン研究の進展 時谷・NIFS 

タングステンに期待される特性に対して,ヘリウムによる損傷,パルス熱・粒子負荷特性,Mixed-material堆積層の形成,が重要な課題であることを指摘し,LHDにおけるこれらに関連する実験結果を紹介した.議論では,タングステンダイバータのセルフスパッタリングの効果について検討すべきである,などのコメントを受けた.

 

5.6 総合討論(W研究の課題、ITERの初期Wダイバータ運転など) 進行:上田 

ITERの初期よりWダイバータを使用することの得失の説明や、Wダイバータを使用した場合に懸念される現象(溶融、再結晶化、ヘリウム照射影響、など)について説明を行った。また、このITER-IO提案に対しては、DTフェーズにおけるWの使用を前提として、そのために必要な準備をWダイバータで行いうるかどうかという観点から、議論する必要があると指摘した。

 

(コメント)

他のトピカルグループとの合同会合が10月IAEA後の合同会合で予定されており、日本の委員より意見を出すことは重要である。その際の共通認識を図るため本サブルクラスターを含めサブクラスター合同会合を8月8-9日に那珂研で予定している。今回出された意見はその際に話される予定。

 

6. 国際・国内活動の近況(続き)と本活動についての議論

6.1 新テキストール協定の進展 中村・NIFS(代読:増崎)

2013年6月でテキストール協定が終了し、線形プラズマ装置によるPWI研究を行う新たな国際協定の準備を進めている。欧州の3極共同研究組織(TEC)が準備をしている線形装置の利点などを紹介した。5月のPSI会議中に第67回テキストール 執行委員会が開催された。NIFSの増崎が執行委員会委員に追加され、新名称は”Implementing agreement on the development and research on plasma-wall interaction facilities for fusion reactors”(日本語での呼び名:PWI協定(仮))で、参加極は日、米、欧(ドイツ、オランダ、ベルギー)の予定。新協定のスコープとして、プラズマ対向材への高熱粒子束負荷許容量の拡大、定常運転に向けての第一壁の運転許容時間の拡大、トリチウム及び毒性材料使用環境下でのPWI研究、PWIへのプラズマ対向材の中性子照射の影響評価、核融合炉における上記運転条件の相乗効果、などが挙げられた。
 

6.2合同会合・活動に関する議論  進行:朝倉

来年度も4会合同会合をつくば大学で開催していただく方向で調整予定。トピックスはこれまでと同様に世話人が集約し提案していただくこととした。2014年にPSIを金沢で開催するため、多くの応募を招待講演や口頭発表に推薦できるよう応募段階で成果を出していただきたい。

 

6.3 2014年PSI会議(金沢)のアナウンス 大野・名大

2014年5月26-30日に金沢音楽堂で次回PSI国際会議をNIFS主催で開催する。国内実行委員会活動開始の紹介が行われ、日頃の成果を応募していただきたいとの案内がされた。